2023年8月8日

 【医師コラム】紫外線が肌に及ぼす影響とは 日焼け後のケアや敏感肌の方が気をつけたいことも解説

「肌に悪いもの」というイメージが強い紫外線ですが、具体的にどんな影響があるのでしょうか。今回は、たかはし皮膚科クリニックの髙橋 謙先生に紫外線が肌に及ぼす影響や対策についてご解説いただきました。

紫外線は肌を劣化させる

日光は地上の生物にとって欠かせないものです。たとえば私たち人間においては、体内時計を補正する役目を果たしたり、骨の形成に必要なビタミンDの体内産生において重要な役割を果たしたりしています。

一方で肌には良い影響ばかりではありません。それは日光に含まれている紫外線が、地球上にある全ての物質を劣化させてしまうからです。この作用は人間においても同様で、特に体を被う皮膚にその影響が出てしまいます。

2種類の紫外線が日焼けや老化、皮膚疾患の原因に

地上に降り注ぐ紫外線にはUVA(長波長紫外線:320~400nm)とUVB(中波長紫外線:280~320nm)があります。肌へ及ぼす影響を具体的に説明すると、波長が長いUVAは物質を通り抜けやすく、雲や窓ガラスなども通過して皮膚の深いところまで作用し、シワやたるみなど老化現象(光老化)の原因になります。

また、皮膚は表皮と真皮の二重の構造となっており、その境界には基底層という部分があります。ここにメラノサイトという色素細胞があり、これが活発化するとメラニン色素が産生されて皮膚の色が黒くなります。

 

UVAにはすでに存在するメラニン色素を濃色に変える作用があり、その影響で日に当たった直後に一時的に肌が黒くなります(即時黒化)。即時黒化による肌色の変化はすぐに戻りますが、UVAはさらにその後、数日~数週間、肌が茶褐色になる「持続型即時黒化」の原因にもなります。また、シミの原因になるUVBの影響を強める作用もあります。

一方で、UVBは波長が短く雲や窓ガラスなどを通過しきれないため、そのエネルギーは減弱します。同様の理屈で皮膚の奥へはやや届きにくいものの、皮膚の表面でとらえられ、刺激の強い急な反応を起こします。具体的には赤みの強い日焼け(サンバーン)を起こし、ひどい時には炎症が進んで水疱などができることもあります。さらにその数日後には、メラニンが増えて黒い日焼け(サンタン)となったり、シミやそばかすが増悪する原因にもなります。

また、UVBは雲や窓などの遮蔽物が無いと、日焼けなど短期的・急性の影響を及ぼします。そして、それが続けばシミ、老人いぼ、シワ、たるみ、皮膚がんなどの長期的な影響へと変わっていきます。

なお、紫外線にはUVC(短波長紫外線:200~280nm)もありますが、これはオゾン層で吸収されるため、地上には届きません。

紫外線の特性を知った上で日焼け止めを選ぼう

紫外線から肌を守るためには、日焼け止めを使用するなどの対策が必要です。日焼け止めの広告で「PA:++」「SPF:20」などという表記を見かけたことがあると思いますが、これらはUVA、UVBに対する防御効果の指標です。商品への表記としてはPAが「+~++++」、SPFが「2~50⁺」となっています。UVAを防御したいのであればPAの「+」がより多いものを、UVBを防御したければSPF数値のより高いものを選んでもらうことになります。

以上を踏まえると、「PA:++++」、「SPF:50⁺」の日焼け止めを選んでおけば良いのではないか、ということになりますが、白浮きするなど使い心地の問題もあり、実際にはなかなかそうはいきません。ではどうすれば良いのかというと、UVAとUVBの特性を知った上で使い分けてもらうようにすることがよいでしょう。

 

 

具体的には、夏場の炎天下でレジャーを楽しむ場合は紫外線を大量に浴びるため、PAもSPFも最高値のものを選ぶのが良いでしょう。一方で、紫外線量の少ない冬に買い物や散歩などで出歩く程度であれば、「PA:+~++」、「SPF:20以下」でも問題ありません。

ちなみに、UVAやUVBの量は1日の中でも変動します。特にUVAは日内変動の幅が少なく朝でも一定量が降り注ぐため、「朝だから大丈夫」と油断せずに日焼け止めなどで紫外線対策することをおすすめします。

こうした特性を踏まえると、必ずしも一年を通してPAとSPFの両方が高い日焼け止めを選ぶ必要はない、と言えます。つまり、紫外線の特性を理解しつつ、自分のライフスタイルに合ったものを使い分けることが大切だと思います。

 日焼けをしたら正しいケアを

日焼けをしてしまったら、まずは冷やしたタオルや保冷材などをやさしく当てて、肌をクールダウンさせます。とにかく赤み・炎症を早く静めましょう。そして、いつもより念入りに保湿をして、日焼けによって低下した肌のバリア機能を高めるようにしましょう。ケアの際は摩擦が刺激にならないように力加減に気をつけてください。また、日焼けの後はできるだけ刺激の少ないシンプルな保湿剤を使うほうが安心です。赤みなどの症状が落ち着いたら美白成分の配合された化粧水や美容液などでケアをするとよいでしょう。できるだけ早く肌の症状を落ち着かせたい場合には、シナール(ビタミンC)やトランサミン(トラネキサム酸)の服用がおすすめです。

なお、痛みやかゆみが強く日常生活に支障をきたしている場合は、極力早めに皮膚科を受診してください。炎症はなるべく早くに取る、というのが、日焼けを含めたやけど治療の鉄則で、早ければ早いほど痕が残りにくくなります。

 敏感肌の方へのアドバイス

敏感肌の人の中には、さまざまな成分に反応しやすい方もいるため、日焼け止めの選び方に注意をしてください。たとえば、日焼け止めに含まれる紫外線吸収剤が合わない方は、紫外線散乱剤をメインとした日焼け止めを選ぶのも方法の1つです。紫外線吸収剤は紫外線を吸収して肌に届かないようにするものですが、吸収する際に熱などが生じるため、その影響で肌に何らかの症状が出てしまうことがあります。一方、紫外線散乱剤は熱などが生じないため、肌への負担がより少ないと言えます。実際には使ってみないと良い・悪い、合う・合わないなどわからないところがありますので、初めて使う際には必ずパッチテストを行うようにすると安心です。

なお、紫外線に当たるとアトピー性皮膚炎が良くなる、という説もありますが、これは以前、治療として日光浴が行われていたためです。確かに軽度の日光浴で皮膚炎は落ち着いていきますが、今では日光そのものには有害な光線が含まれていることが分かっており、現在では「ナローバンドUVB」と言って有効な紫外線のみを当てる治療に替わっています。急激な日焼けは刺激が強く、むしろ症状を悪化させることもありますので、アトピー性皮膚炎などで肌が敏感な人も必ず紫外線対策をするようにしましょう。

 まとめ

紫外線による皮膚への影響は短期的なものから長期的なものまで多岐にわたります。過去に浴びた紫外線の影響は変えられませんが、これから受けるかもしれない紫外線をしっかりと防ぎ、今後を見据えたスキンケアの一環として日焼け止めなどによる対策を心がけましょう。

執筆

髙橋 謙先生

医師。たかはし皮膚科クリニック院長
https://www.takahashi-hifuka.com/

経歴

大阪医科大学を卒業し、東京女子医科大学循環器内科、京大病院総合診療科、関西電力病院総合内科へ入局。平成21年より髙橋皮膚科クリニックに所属、大阪市立総合医療センターでの研修を経て、平成27年12月に兵庫県尼崎市でたかはし皮膚科クリニックを開業し、現在に至る。

所属学会

日本皮膚科学会、日本内科学会、プライマリ・ケア連合医学会、日本循環器学会、糖尿病学会、日本超音波医学会